13星座説……これまで何度話題に上ったことやら ★占星術はインチキ?
私は時おりこのコーナーで読者からの質問に答えることにしています。次の質問は非常によく聞くもののひとつです。
「私の夫(または兄弟もしくは先生)によると、占星術はインチキだそうです。なぜなら古代ギリシア時代以来、地球が動いたからです。『木星が牡羊座に位置しています』と占星術師が言うとき、実のところ木星は魚座に位置しています。夜空を見上げれば、それは自明のことです」。
この種の質問を受けたとき、私はいつもこう答えることにしています。「占星術で用いられる星座と実際の星座は違います」と。でも、つい最近、「新しい星座の誕生」にまつわるデマが広められましたので、今回はもう少し突っ込んで説明したいと思います。
★春分点歳差
古代ギリシア時代以来、「天が動いた」ことは確かです。この現象は天文学用語で「春分点歳差(しゅんぶんてんさいさ)」と呼ばれます。数千年に一度の割合で北極星が変わるのは、この理由によります。我々占星術師はずいぶん前からこのことを知っていました。だからこそ私たちは、星占いをする際、実際の星座を使わないことにしたのです。実際の星座は幅がまちまちで、頼りになりません。また、「各星座がどこから始まり、どこで終わるのか」という点もあいまいです。しかも、時の経過とともに星座は移動します。占星術師は、宇宙を分割するために、別の方法を採用する必要がありました。そこで我々は黄道を12に等分割しました。黄道とは、見かけ上、太陽が天を移動する道です。そこで占星術師は12分割したものに星座の名前をつけることにしたのです。
ここまでは理解できましたか? 理解できたことを願っています。なぜなら、私はとても重要なことを説明したくて躍起になっているからです。あまりにもその願いが強いので、冷静に話ができなくなっているかもしれません。
★13星座説が世間をお騒がせ
時おり、私はジャーナリストから電話で問い合わせを受けることがあります。これらのジャーナリストたちは13星座説に関するうそっぱちを天文学者から吹き込まれたのです。一部の占星術師は天文学者の言葉を疑いませんでした。彼らはすみやかに天文学者の「科学的な権威」を信頼し、このニュースを何百万もの新聞の記事や、ブログや、ツイッターや、ユーチューブのビデオを通して広めました。
その結果、私はばかばかしい質問を次から次へと受けることになりました。「ケイナーさん、新しい星座が生まれたことを科学者が証明し、星座の日付が変わりましたね。そのことを読者にどうやって説明するつもりなのですか?」と。
「何も変わっていないから説明することはありません」と答えたら、ジャーナリストはちょっと失望したようでした。一部のジャーナリストは私が逃げの手を打っていると思ったほどです。でも私は決して逃げようとしているわけではありません。むしろ私は呆れてものも言えないのです!
★それは今に始まったことではない
最悪なことに、私はこの騒ぎをすでに二度も体験しています。90年代の中ごろ、別の天文学者がまったく同じ発言に及びました。その天文学者は、自分の評判を高め、占星術の信用を落とすために、そんなことをしでかしたのです。また、私が占星術師になって間もないころ(当時私は若くて、まだ髪の毛がありました)、クジラ座説が広まり、私はその火を消す必要に迫られました。そして今、またもや同じできごとが起こりました。私はすっかり年をとったような気分です。
ともあれ、説明に戻りましょう。先に、12分割した黄道に星座の名前がつけられたと説明しましたね。これは意図的なことだったのです。当時の占星術師たちは「占星術で用いられる星座」と、「実際の星座」とが、時の経過とともに離れていくことを知っていました。それでも彼らは黄道を12に等分割し、それらに星座の名前をつけたのです。彼らは未来を予知する力を持っていたものの、新世代の占星術師たちが13星座説に関するデマの流布で大変な思いをすることになろうとは、夢にも思わなかったでしょう。
★天文学と占星術はひとつだった
古代ギリシア人や、その前のバビロニア人にとって、天文学と占星術の間に隔たりはありませんでした。ふたつは同じものだったのです。星について研究することは、イコール星の象徴的な意味を読むことを意味しました。正確な予報をするためには、星の動きをつぶさに観測しなければならなかったのです。この傾向は驚くほど最近まで続きました。18世紀の後半まで天文学と占星術は同一のものだったのです。ガリレオ、ケプラー、コペルニクスから、ニュートンに至るまで、近代天文学の偉人たちは、全員、惑星の軌道を測ることと同じくらい、星の神秘学的な解釈に関心を持っていました。
これらの偉大な天文学者たちは「天文学の星座」と「占星術の星座」の違いをよく理解していました。占星術では数学的に等分された星座が用いられるのであって、実際の星座は飾りに過ぎないことをわかっていたのです。彼らは「天文学の星座」と「占星術の星座」が合致しないことも知っていました。「天文学の星座」の移動は大昔に始まったからです。
★宣戦布告
ここで大きな疑問が生じます。ニュートンもガリレオもそのことを熟知していたのだったら、先週末に13星座説を新聞に流したミネソタの天文学者たちは、どうしてそのことを知らなかったのでしょう? 彼らは、どんな動機で、クジラ座という13番目の星座の誕生を宣言し、既存の12星座に新しい日付を割り当てたのでしょう?
彼らはそれほど無知なのでしょうか? それとも彼らは自分の名を上げるために、そんな行動を起こしたのでしょうか? その行動を起こすことによって、占星術が幾多の非難や中傷を浴びることになっても、そんなことはお構いなしで……?
残念なことに、彼らの目的は完全に攻撃的なものでした。過去2~300年の間に占星術と天文学の間の溝は大いに深まりました。初めのうちは小競り合いだったのですが、そのうちに、本格的な戦闘に発展しました。もっとも、今までのところ、攻撃はすべて天文学者の側からなされているのですが。
天文学者は占星術師に宣戦布告しました。天文学者はこう感じています。「占星術師は存在するだけで攻撃に値する。よくもまあ、あんなでたらめを信じられたものだ。天文学者は惑星の動きから神秘的な意味を読むようなまねはしない。我々は惑星の軌道や自転や化学組成を計測するだけで満足している。惑星の動きから意味を読む権利など、占星術師にはない」と。
皮肉なことに、天文学者の占星術師に対する怒りの弁明は、異論を認めない発言のように聞こえます。天文学者はあることを信じていて、占星術師は別のことを信じています。占星術師は天文学者の「自分の信じたいことを信じる権利」を喜んで認めますが、天文学者はすべての占星術師が暴露され、面目を失わない限り、満足できないようです。
★科学界で占星術は忌み嫌われている
そんな天文学者の態度に拍車をかけているのが、ある非常に俗っぽい要素です。天文学者は大金を稼ぐことができません。宇宙を科学的に研究することを生業にしたいのだったら、ほとんどの場合、乏しい補助金を糧にしなければなりません。でも、一部の占星術師は占いによっていい暮らしをしています(ただし、いい暮らしをしているのは一部の占星術師に限られていることを強調しておきます)。宇宙に関する占星術師の知識は天文学者よりも限られているにもかかわらず、占星術師のほうがお金を稼いでいるという事実は、天文学者にとって腹が立つことに違いありません。
でも、天文学者が占星術を研究したいのだったら、それは彼らの自由ですよね? 奇妙なことに、天文学者にそんな自由はありません。私たち占星術師は両手を広げて天文学者を歓迎するでしょう。ところが、天文学者の間では、同僚からのプレッシャーがことのほか強いのです。科学界全域で占星術は忌み嫌われています。占星術に限らず、テレパシーやホメオパシーといった半神秘的な活動もさげすまれています。
このように、科学界では偏見に根差したショッキングな憎悪が蔓延しています。そのため、大学の研究者が神秘的なことについて研究し、「結局のところ、この件にはある程度の信ぴょう性があるかもしれない」という結論を出そうものなら、その発表がどれほど小さなものであっても、同僚は拍手をもって迎えてはくれません。それどころか、その研究者は公の席で否定され、嘲笑の的にされます。そして、翌年に助成金が分担されるとき、その研究者の取り分は最低になってしまうのです。その研究者がどんなに尊敬を集めていても、その研究がどれほど先進的なものであっても、変わりはありません。そして、どの大学でも同じような状況になっています。
★占星術師にも責任の一端が
というわけで、天文学者は占星術師が好きではありません。それに、公正を期すならば、占星術師も自分に不利なことをしでかすこすことがあります。たとえば、星占いのサイトにアクセスしたとき、点を線でつないだ星座の画像を見かけることがありますね。そんな画像を表示する占星術師はちょっと考えが足りないといえるでしょう。可能性はふたつにひとつ。その占星術師は「実際の星座」と「星占いで用いられる星座」が異なることを知らないのかもしれません。もうひとつの可能性は、その占星術師が違いをわきまえてはいるものの、デザイナーの言いなりになっているということです。
この状況をさらに複雑にしているのがインド占星術と、サイデリアル占星術です。サイデリアル占星術は西洋占星術の一派ですが、この占星術を実践している人は、実際の星座を使って占いをします。インド占星術師もしかり。ということは、星座の日付が異なるということです。言うまでもなく、彼らの占法は一般的な西洋占星術の占法とは違います。いうなれば、シター(インドの弦楽器)とギターの演奏方法が違うようなもの。しかし、インド占星術師やサイデリアル占星術師でさえクジラ座を用いてはいません。
★大した被害はなかった
敵意のあるデマをマスコミに流したミネソタの天文学者は、今ごろ両手をこすり合わせながら、ほくそ笑んでいるに違いありません。でも、彼らは目的を達したとは言い難いです。占星術は大した被害を受けませんでした。
占星術の星座は昔のままで、少しも変わってはいません。新しい星座も、新しい日付も存在しないのです。そして、悲しいかな、15年かそこらが経ち、みんながこのことをすっかり忘れたころ、別のずる賢い天文学者が同じ問題を再び起こすことになるのでしょう。